カン…!カン…!カンッ……!
澄んだ初夏の空に抜ける、的を射る軽い音。馬の蹄が地面を蹴る音が、近づいたと思うと一瞬のうちに遠ざかる。ギラギラと照る南の島の太陽の下で、会場の空気は凛と澄み、暑さも時間も忘れるような興奮のひとときが繰り広げられました。
八重山流 流鏑馬神事とは?
流鏑馬(やぶさめ)は、古来から五穀豊穣や無病息災を祈願するために全国各地で寺社仏閣に奉納されてきた儀式。疾走する馬の上から矢を放ち、3つの的に当てる日本の伝統武術です。
暑い石垣島の陽光の中、射手(いて)たちが、まるで源氏物語の絵巻に描かれた武士のような伝統的な衣装を身にまとって儀式を行います。鹿の毛皮を腰に巻いた狩衣(かりぎぬ)姿はとても凛としてかっこよく、鮮やかな色味と光沢が豪華な直垂(ひたたれ)はため息が出るほど美しくて、まるで別世界に来たかのよう。射手たちがそれぞれ位置について、さあ、いよいよ神事が始まります。
流鏑馬神事がスタート!
儀式は、蟇目(ひきめ)の儀、百々手(ももて)式、流鏑馬の流れで進んでいきます。蟇目の儀では、先端に鏑(かぶら)という中をくり抜いて空洞にした木が付いた矢を放ちます。この鏑が風を切ると「ヒョウ」という鋭い音が鳴るのですが、その音で魔障を祓う儀式です。
百々手式では複数の射手が一斉に矢を放ちます。今回の射手は5人。丁寧な所作で整列して入場し、次々に矢をつがえ、一斉に放たれる!遠くの的に吸い込まれるように矢が飛んでいき、すべて的中!会場からは「おおー!」という歓声と拍手が湧きあがります。
さて、お待ちかねの流鏑馬です。約200mの馬場に3つの的が設けられ、花射手(はないて)と平射手(ひらいて)が馬の上からその的を射ます。最初に、花射手を乗せた馬が走り出した!
カンッ!カン!カンッ…!
早い…!馬ってこんなに早いのか…!そしてその馬に乗りながら、3つの的すべてに矢を射た花射手の技術の高さと集中力たるや!会場にいた子どもたちもお年寄りも、観客みんなが凛々しい花射手の姿をよく見ようと首を伸ばし、会場は大きな拍手に包まれました。
次の騎射では平射手が馬に乗って走り出し、またもや全発的中!次々と騎射が進んだころ、この日初めて流鏑馬に挑戦するという袴姿の射手が馬を走らせました。観客も関係者も固唾をのんで見つめていたその騎射では、残念ながら的に矢を当てることができませんでした。ここで解説が入り、走っている馬の上は想像以上に揺れるので、的を正確に狙うのが困難なのはもちろんのこと、矢を放った後に次の矢をつがえることさえ難しいとのこと。
ここまでベテランの花射手たちがすべて的中させていましたが、改めて、馬上から矢を射るという難しいことをやり遂げた実力の高さに感動してしまいました。
その後も大迫力の流鏑馬は息つく間もなく続き、6本の騎射で終了。会場にいた観客はみんな興奮した様子で、大きな歓声と拍手に包まれました。息ぴったりな馬と射手のコンビネーション、そして的を射るカーン!という高い音に、心臓ドキドキ、沖縄の方言で「ちむどんどん」、大興奮の八重山流流鏑馬神事。旅行のタイミングを合わせて足を運んでみる価値あり!のイベントです。
【八重山流 流鏑馬神事】
場所 石垣市中央運動公園・陸上競技場前
観覧 無料
協力 小笠原流 飯盛宫当流 流鏑馬保存会、八重山郡スポーツ協会